「籠の鳥が死ぬわけを知っています
鳥たちと同じように、あたしも空にふれたから」
(キリンヤガ「空にふれた少女」より)
意味をさっぱり類推できないタイトルながら、何かの書評でも読んだのでありましょう。普段なら買わなそうな買い物でしたが読んでみました。
ハヤカワ文庫なのでSFです。とはいえ、SFという世界観を借りた、とてもとても普遍的な、なんだろう、寓話集とでもいえばいいのだろうか。
ともあれ、中身を読んでもらう方がいい。すごい本だった。掛け値なしの名作だと思う。
買う価値?あるよ。SFとかはちょっとって言うのストップ。ここまで見事な物語はあまりないとおもうの。
白人の文化に汚染されることを嫌ったケニアの一民族が、とある小惑星にケニアの気候を再現(他の星を地球みたいに作り替える技術をテラフォーミングといいますが、それのこと)して、彼らの古き良き世界・ユートピアである「キリンヤガ」を作ろうとしている、そんな環境が舞台。
え?って思うのよ、ここで。
矛盾の極みじゃない、白人の文化を嫌った人達が、白人の文化の象徴である科学を使って大地を再現するって。
こうした、おそらく誰もが疑問に思うであろうさまざまな「矛盾」は、章を追うごとに紐解かれていきます。
「あーあるよねそういう話。ようするにs」
いいから聞いてよ。
こんな無理が続くわけがない、誰かが気づいてしまう、そして気づいたが最後、進歩や進化への歯止めをすることはできないだろう……誰も、悪意でそうするのでないからこそ。
読者の疑念は決して晴れることなく、おそらく最終章まで傍らにいることになるでしょう。
何が正しいのかとか、まちがっているのかとか、簡単に解けない話がたくさん出てきます。行動したい、知りたい、ここではない何かを見たいという欲求や衝動と、それが害悪をもたらすのだという信念との、ぶつかり合いが描かれます。
簡単に解けないと言ったのは、ほんとうは嘘。
永遠に解けない。
この二律背反を解く鍵は、未来永劫に私たちの手元には降りてなんかこない。
だからこそ、作者はこの物語を書いたのでしょう。
表裏一体のことがこんなにもたくさんあるのだと思わされます。
より良くありたい、でもトレードオフがある。何を犠牲にするのかとその深刻さは、必ず失った重みを知ったあとで気づく。そしてもう元に戻れはしない。
数多く語られる、古い秩序(それはとても素晴らしい物なの)をかたどった寓話。科学が彩った世界を離れ、古い秩序で暮らす世界、質素で穏やかで。
でもそれって本当なんだろうかと、思ってしまったなら。
あるテレビ人が言った、
「日本人はバナナですよ。皮だけ黄色いが中身は白い」
という言葉を思い出します。
SFって難しそうじゃねという方ご安心を。難しい言葉や概念は出てきません。この本にとっては、この本がSFであることは、書き手がSF作家だったからということにすぎないの。
誇りある孤独な、そして力を失ってゆく祈祷者。賢いが故に悩みを手にする人たち。そして古い人間にも、新しい人間にもなれない人たちと私たち。
答えは決してでないであろう、妥協点などあるわけもない、本質が違うのだから。
たくさんのことを考えさせてくれる物語でした。
冒頭の言葉は、作中のとある少女の遺した最後の言葉。
胸に刺さるの、とても。
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あたしのおすすめ度?★5こだよ!
おーなんか面白そう。
こういうテーマには惹かれちゃう。
ライトノベル系の本も捨てたもんじゃないでしょ?
そもそも定義が良くわからんけど・・・
そういう変な枠を気にせず、偏見持たずに色々読んだ方が結果としていいんじゃないかな。
うむー
よいものはよいのであるので、よいものならよもうとおもうー
ただ読んだあとでも「猫の地球儀」の表紙というかイラストレーターの仕事はまったくもってなってないというかド三流というか角川定石のクオリティだよねって気はする。この言い方古いか。
とにもかくにもキリンヤガは良かった。
ビールじゃないからなヽ(`Д´)ノ